しがない人生

四季の移ろいを背景にして、 主人公の情感が、匂うような小説をupしていきます。

山崎朋子『サンダカン八番娼館』を読んで

山崎朋子の『サンダカン八番娼館』。
文春文庫の新刊である。
1972年の単行本『サンダカン八番娼館』と、
『サンダカンの墓』1974年刊を収めている。

まず驚いたのは、文章の素晴らしさである。
その格調の高さと、匂うような文学的な香気だ。
ノンフィクション作家で、これほどの文章を書ける人は、稀なのではなかろうか。
熊井啓監督により映画化されたこともあって、
一世を風靡した作品であるから、その名は知っていたが、
読んだのは、これが初めてだった。

明治から大正にかけて、九州の天草島・島原半島から、
多くの娘が、東南アジア等へ出稼ぎに行った。
娘たちは<からゆきさん>と呼ばれた。
<からゆきさん>とは、春をひさぐ仕事である。
我が子を、<からゆきさん>にせねばならなかった貧しい農民の暮らしを思うと、
胸が詰まる。

おサキさんは、十歳でボルネオ島のサンダカンに売られ、
十三歳で客を取らされた。

幾星霜を経て、郷里の天草に戻ったおサキさんは、
今にも崩れそうな茅屋に独り住み、その生活は赤貧洗うが如しである。
そんな老いたおサキさんと、山崎朋子は邂逅し、
おサキさんから、昔日の話を聞かせてもらう。

私は、通勤電車の中で、この本を読んだのだが、
おサキさんと山崎朋子の心の交流を描いたくだりになると、
思わず目頭が熱くなり、涙が溢れそうになって困ったことが、再三あった。

1984年4月30日、おサキさんはその生涯を閉じた。
故郷の村、小高い丘の墓地に納骨された。
近くに、ひときわ目立つ桜の木があるという。

ちなみに、私は文春文庫の回し者でも何でもない。
無論、金銭を貰って宣伝しているのでもない。
山崎朋子さんの著作に感動したから、
その感動を吐露したに過ぎない。

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